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    好きなクルマ、乗りたいクルマを自由に選び、3年間楽しむことができる。そんなモビリティサービスを月々定額のサブスクリプションモデルで提供する「KINTO」が旋風を巻き起こしている。モビリティサービス・カンパニーへの変革を志向するトヨタ自動車と住友商事が主導したもので、人とクルマの新しい関係を提案していくという。この事業の立ち上げと発展を担っているKINTOの2人のキーマンに話を聞いた。

    より多様な選択肢を持つモビリティサービスやそれを支えるビジネスモデルを具現化していく

    クルマも「所有から利用へ」「モノからコトへ」

    ―さっそくですが、世間で話題が沸騰している「KINTO」について、どんなサービスなのかを教えてください。

    曽根原 お客様とクルマとの新しい関係を提案するサブスクリプションサービスです。登録諸費用や毎年の自動車税、定期メンテナンス、任意保険などの手続きもすべてワンパッケージ化しており、店頭だけではなくネットからも申し込みや手続きが可能。頭金なし、月々の定額でトヨタ・レクサスのクルマをご利用いただけます。もちろん、メンテナンスや修理などのアフターサービスは、トヨタやレクサスの正規販売店が実施します。
    いま提供しているのは、「KINTO ONE」と「KINTO FLEX」の2つのプランです。KINTO ONEでは、トヨタブランドの売れ筋車種の中からお好きな車1台を3年間ご利用いただけます。一方の KINTO FLEX は、レクサス6車種の中から6ヶ月ごとに、または1年毎にお好きな車をお選びいただき、3年間ご利用いただけます。

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    ―どんな経緯からKINTOのサービスは誕生したのでしょうか。

    本條 トヨタ自動車と住友商事が発起人なのですが、両社がともに抱いていたのは「そろそろクルマも売り方(ビジネスモデル)を変える時期ではないか」という思いでした。例えば家電の世界を見ると、かつてはメーカーごとの「まちの電気屋さん」が販売を担っていたのが、家電量販店が主流となり、さらに現在ではネット通販へと移っています。ならばクルマもネットで買えるチャネルがあっていいはずだと考えました。
    もちろん、クルマを購入する際には複雑な法的手続きや契約が必要で、そもそも価格さえもディーラーごとにバラバラでよくわからないなど、「ネットを通じた販売には適さないのではないか」という意見も多く寄せられました。しかし、昨今のように「所有から利用へ」「モノからコトへ」といったキーワードに象徴される社会の動きの中で、私たちなりに何かできることがあるのではないかということで検討を重ね、クルマをサブスクリプションサービスで提供することになりました。

    ―「所有から利用へ」「モノからコトへ」というお言葉もありましたが、KINTO のビジネスを始める背景では、やはり社会や市場、産業構造そのものの変化といった、時代の大きな流れを捉えているのですね。

    本條 トヨタ自動車の豊田章男社長も「我々はモビリティサービス・カンパニーへと変革する」とことあるたびに語っています。クルマを作って売るというメーカーの論理を押し付けるのではなく、お客様目線に立った価値を提供するサービスプロバイダーへの転換を目指すという意志を示したものです。お客様はクルマで何をしたいと望んでいるのか。「目的地に移動したい」「生活を楽しみたい」といった多様なニーズにお応えしていく、モビリティの新たな可能性にチャレンジしていこうとしています。
    その意味で、KINTO のようなサブスクリプションサービスも決してゴールではありません。将来的にはクルマ以外の乗り物を含めた、より多様な選択肢を持つモビリティサービスおよびそれを支えるビジネスモデルを具現化し、提案していきたいと考えています。

    ―そうしたモビリティサービスを、今後グローバルでも展開していくのでしょうか。

    本條 もちろんです。ただし、サービス形態は異なります。先に申し上げたようにKINTO のビジネスを日本国内では月々定額のサブスクリプションサービスとして開始しましたが、例えばヨーロッパではよりカーシェアリングに近い形のサービスから始めています。国や地域ごとに異なるクルマ社会の成熟度、ニーズ、文化にあわせたサービスを提供していく必要があります。

    シニア層の不幸な事故を減らすためにも有効

    ―あらためて KINTO について掘り下げたお話を伺いたいと思います。確かに画期的なサブスクリプションサービスですが、クルマに関してはカーリースやレンタカー、先ほど少し話題に上ったカーシェアリングなど、私たちの身の回りではすでにさまざまなサービスが提供されています。そうした中で最も KINTO がマッチすると考えているのは、どんなユーザー層なのでしょうか。

    曽根原 例えばお子様が生まれたばかりの家庭など、カーシェアリングを利用するにしてもステーションまで赤ちゃんを抱いていかなければなりません。また、レンタカーを利用する場合も同じですが、チャイルドシートが装備されたクルマを探して事前に予約しておかなくてはなりません。こうした多くの手間や苦労が、KINTO をお選びいただくことで解消されます。
    お子様が小さいうちはチャイルドシートを装備したスライドドアのワゴンタイプのクルマを利用し、少し大きくなればジュニアシートにしてセダンタイプに乗り換えるというように、お子様の成長やライフスタイルの変化に合わせて、我慢することなく3年サイクルで最適なクルマを選んでいただくことができます。

    ―感覚的には、これまでカーリースを選択してきたユーザー層により便利で都合のよいサービスとして受け入れられそうですね。

    本條 ありがとうございます。実はもう1つ大きなターゲットになると考えているのはシニア層のお客様です

    ―どういう理由でしょうか。

    本條 この半世紀ほどの歴史の中で、クルマは飛躍的な性能向上を遂げてきました。特に大きいのが安全性能です。これを裏付けるように、1970 年に 1万 6,756 人に達した交通事故死者数は、2018 年にはその 5 分の1に近い 3,532 人にまで減少しています。
    一方でクルマの信頼性や耐久性も向上しており、以前は 5 年ごとに新車に買い替えていた人が、現在は10 年くらい同じクルマを乗り続けるケースも増えてきました。特にシニア層のお客様は、自分であと何年運転するかわからないといった理由で、古いクルマにそのまま乗っていたりします。私たちにしてみれば、これは非常に残念なことです。むしろシニア層の方にこそ、最新の安全対策技術がフルに装備されたクルマに乗っていただきたいからです。KINTO であれば、先のことはまったく心配せず、最新の好きなクルマを選ぶことができます。ちなみに免許返納される際には、途中で解約する場合も解約金はかかりません。

    対面を重視してきたディーラーの役割も変わる

    ―安全対策技術のほかにも、モビリティサービスの進化という観点から注目している技術トレンドはありますか。

    本條 やはり、テスラ車が先行実装した「Over The Air(OTA)」技術の動向は気になります。

    ―あたかもスマートフォンのように無線通信を経由してデータを送受信し、ソフトウェアのアップデートなどを行う機能のことですね。

    本條 そうです。これまでは車載ソフトウェアの更新や修正なども、パーツの故障などと同じようにディーラーにクルマを持ち込んでいただき対応してきましたが、OTA 対応が進めば、お客様の手間や時間を軽減することができます。 また、カーナビゲーションの地図情報やコックピットのユーザーインターフェースなどもネット経由で自動的に更新することができます。このようにモビリティサービスと OTA は非常に相性がよく、相乗効果を発揮しながら、より付加価値の高いサービスを実現することができます。

    ―そうなると逆の意味では、お客様とディーラーの関係が疎遠になってしまうという側面もあるのではないでしょうか。

    本條 鋭いご指摘ですね。おっしゃるとおり各ディーラーはこれまでお客様との対面での接点を大切にし、満足度を高めることを追求してきました。ところがわざわざディーラーに出向かなくてもネットで好きなクルマを注文できる、自動的に機能がアップデートされる、さらに将来的に自動運転で自宅まで届けられるとなれば、必然的にディーラーとの付き合い方は変わっていくことになります。全国のディーラー網をどう活用していくのか― これからの大きな課題であるのは事実です。

    ―そうした時代に進むべき方向性について、何らかの構想やアイデアはありますか

    曽根原 まだ夢物語と思われるかもしれませんが、お客様とクルマの付き合い方は、モノや商品ではなく、生活の一部であったり、行動を手助けしてくれる友達であったりという位置づけになっていくと考えています。例えば「買い物難民」と呼ばれる高齢者が、地方だけでなく都会でも増えていると言われます。そうした方々の日々の生活を、自動運転の小型 EV やシニアカーを含めたモビリティサービスでサポートしていけたらと思います。
    その仲介役を担っていけるのが、まさに全国のディーラー網です。お客様のニーズに寄り添った提案を、地域ごと個人ごとにきめ細かく行っていくことで、新たなビジネスチャンスが広がるとともに、社会も大きく変わっていくのではないでしょうか。

    本條クルマは必ずしも所有しなくてかまわない。このシンプルな考え方が自動車業界とお客様の双方に広がっていくことで、クルマとお客様、ディーラーとお客様の新しい関係性が築かれていくと思います。KINTO としてもそうした時代をリードすべく、これからもよりよい多様なサービスを率先して提供していきます

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    本條 聡(ほんじょう さとし)氏

    1998 年住友商事㈱に入社。住友アビーム自動車総合研究所の他、住友商事とパートナー企業の合弁事業 4 社を立ち上げる。その後、住友商事の経営企画を経て2019年4月より現職。中長期視点での事業開発やパートナー戦略を推進中。東京大学卒。

    曽根原 由梨(そねはら ゆり)氏

    2004 年テキサス大学オースティン校卒業後、トヨタ自動車に入社。人事・営業企画部を経た後、2013 年にファーストリテイリング(ユニクロ)に転職。出産を機に愛知県へ戻りIT企業を経て現職。現職ではUIUX・フロントアプリケーション全般を担当

    編集・発刊
    株式会社サブスクリプション総合研究所

    2019年11月15日発行「Subscription YOU 06」

    Web公開日

    2020年3月26日

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