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    伝統的なリースやファイナンスを手掛けてきた東京センチュリー、モバイルとクラウドを両輪とするテクノロジーベンチャーのソラコム。業種もバックグラウンドも異なるこの2つの企業がIoTを共通テーマに協業することになり、開始したのが「IoT SELECTION connected with SORACOM」だ。実績のある IoTソリューションをサブスクリプションで提供し、世の中に変革を起こすこの取り組みのビジョンや目標などについて、両社に聞いた。

    【対談】

    玉川憲氏(ソラコム 代表取締役社長)×成瀬明弘氏(東京センチュリー 取締役常務執行役員)

    携帯電話が登場した90年代の状況と似ている

    ―今回の協業により、IoTサブスクリプション・マーケットプレイス「IoT SELECTIONconnected with SORACOM」を開設するに至った東京センチュリーとソラコムですが、まずは両社の特徴やビジネスのスタンスをご紹介していただけますか。

    成瀬 私ども東京センチュリーは旧社名(東京センチュリーリース)が示すとおり、元々はICT系の機器をはじめ各種産業機器、航空機、船舶、不動産に至るまで、お客様の設備投資をリースという手段でお手伝いすることを強みとする企業でした。しかし、クラウドの台頭により、ICTシステムはこれまでのような「所有する」から、「利用する」へと大きく変化しています。リースは使命を終えたとまでは言いませんが、もはや大きな需要の伸びは期待できません。この時代の流れの中で私たちは「金融×サービス×事業」の3軸融合による新たな業態へ転換しようとしています。ファイナンスをベースに、お客様のサービス化を支援し、さらにお客様ともに事業を創出していくというものです。

     

    玉川 東京センチュリーさんのような伝統ある企業と違い、私たちソラコムは2015年に創業したばかりのテクノロジーベンチャーです。IoTプラットフォーム「SORACOM」ではデータ通信SIMを提供していることから事業区分としては「MVNO」(仮想移動体通信事業者)となりますが、各種アプリケーションサービスやネットワークサービスをクラウドから提供していますので「クラウド事業者」という見方もできます。通信とクラウドの2つの業界をクロスして、新しいIoTソリューションを提供しているサービスプロバイダーと理解していただけたらと思います。

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    ―まったく違ったバックグラウンドの東京センチュリーとソラコムですが、共通のビジョンのようなものはお持ちだったのでしょうか。

    成瀬 玉川さんから「IoT」というキーワードが挙がりましたが、端的に言えばこれが共通のビジョンです。世の中全体として、まだIoTの本質をつかみ切れずに悩んでいる向きがありますので、そこに何らかの答えを示していきたいと考えています。ちょうど1990年代に携帯電話が登場した頃と状況がよく似ていると思うのです。

     

    玉川 携帯電話がやがてスマートフォンのようなモバイルデバイスに進化し、電車の中でみんながYouTubeの動画を見るようになるなんて、誰も想像できませんでしたね。

    ―確かに、言葉が持つ意味と、その背後にある可能性が連動してないように思えます。携帯電話は「持ち運べる電話」でしたし、IoTのほうは「モノのインターネット」だと言われていますが、言葉が持つ意味だけだと、その可能性がよくわからないですね。

    成瀬 そうなのです。我々がまだ気づいていないような、隠れていた価値がこれからどんどん明らかになっていく、IoTはまさにその入口に立っていると言えます。

    協業でお互いの足りない“ピース”を埋められる

    ―両社の共通テーマとしてIoTがあったことがよくわかりましたが、それにしても今回の協業には意外感があります。

    玉川 IoTが難しいのは、“総合格闘技的”なテクノロジーであることです。サーバーを用意するだけではだめで、センサーなどのデバイス、それらを結ぶ通信、セキュリティーなど多岐にわたるテクノロジーが必要で、そのすべてを単独のベンダーが賄うのはほぼ不可能です。そこでソラコムは、まずIoT向けの通信やデータを管理するクラウドをできるだけ簡単に使えるようにしよう、デバイスもエコシステムから調達できるようにしたい、そういったスキームをつくることに注力してきました。

    ―IoTをより使いやすくする、いわゆる“民主化”を進めてきたわけですね。

    玉川 おっしゃるとおりです。その結果、そこにさまざまなソリューションのパートナーが登場してきました。例えば車両の現在位置をリアルタイムで把握して配車や物流の管理を行う、トマト栽培のハウス内の温度や湿度、CO2濃度などを可視化して最適な環境を保つといったものです。また、そうした実績のあるソリューションを自社でも導入したいというお客様も増えてきました。しかし、そこで直面したのが初期費用負担の問題です。できるだけ小さな規模から始めたいというニーズに、しっかりお応えできていませんでした。そうしたところに東京センチュリーさんから「一緒にやりませんか」とお声をかけていただいたのです。おかげでIoTソリューションをサブスクリプション化することが可能となり、当初の課題のかなりの部分が解決できたと思っています。

     

    成瀬 先に申し上げたとおり、私たち自身もモノに対してファイナンスを行う従来型のリースには限界を感じていました。そうした中で注目していたのが「コトを売る」という流れに軸足を移し始めた企業の動きで、私たちに何がお手伝いできるかを探っていました。私たちの課題を別の角度から捉えていたのがソラコムさんだったのです。そして、両社が手を組むことでお互いの足りないピースを埋めることができると考えました。「一緒にやりませんか」とお声がけしたのは、そんな経緯からです。

    ―とはいえ、これまで日本において異業種のコラボレーションは、なかなか思うように成就しないのが実情でしたね。​

    玉川 正直なところ、一抹の不安はありました(笑)。IoTソリューションをサブスクリプション化するといっても、具体的にどういう形で提供すればお客様に受け入れていただけるのかという答えは手探りです。とりあえずサービスを始めて、お客様の要望を聞きながらブラッシュアップしていくしかありません。私たちはベンチャーですのでスピード勝負で突き進むことができますが、東京センチュリーさんのような大企業の中でそれが許されるのかなと・・・。ところが実際に手を組んでみると、私たちの想像をはるかに上回るスピード感をお持ちでした。

     

    成瀬 私たちの社内も、焦りは相当なものでしたよ(笑)。ベンチャーのスピード感についていけないと、すぐに見切られてしまいますので。ただ、手前味噌かもしれませんが、東京センチュリーは同業の中でもビジネスのスピードに対する感性を最も高めてきた会社だと自負しています。実際、経営陣も現状に強い危機感を持って変化を求めており、今回の協業に関してもかなりの部分を権限委譲して思う存分やらせてもらっています。

    IoTにはサブスクリプションを進化させる力がある

    ―IoT SELECTION connected withSORACOMのサービスを始めてみて、改めて見えてきたことはありますか。

    玉川 サブスクリプションの概念を広義に捉えたとき、IoTは非常に強力な武器になると感じています。例えば明太子を中心とした食品販売のふくや様は、IoT技術を用いた「明太子の自動配送サービス」を開始しました(※福岡限定でサービス開始)。冷蔵庫内に設置された「ふくやIoT」内部に明太子トレイを収納すると、内蔵の重量センサーで計測した日々の消費量データがLTE回線を通じて自動的に送信されます。このデータをもとに明太子がなくなる前に配送するため、家庭で明太子を切らしてしまうことがなくなるという非常にユニークなものです。この事例のように単なる定期購入ではないオンデマンド型のビジネスを成立させるなど、IoTにはサブスクリプションを進化させる可能性があります。

     

    成瀬 とても面白い事例ですよね。こうした気づきの発信源となり、IoTで何か困ったことがあればまずここをのぞきにくるといった、そんな場にIoT SELECTIONconnected with SORACOMを育てていきたいと思います。ネット通販と言えばアマゾンや楽天などを思い浮かべますが、IoTソリューションの世界で彼らと同じような存在になりたいです。

    ―そこに向けて、どんなチャレンジが必要ですか。

    玉川 IoTによってオフライン環境から収集可能となるデータの活用です。先にご紹介した「ふくやIoT」の事例はまさにその象徴的な取り組みで、冷蔵庫内というオフライン環境からデータを取得するというアイデアを活かすことで、顧客にかつてないサービスを提供することが可能となりました。同じ観点からまわりを見渡してみると、例えば、ネット通販では特定の顧客がどの商品のページを何回アクセスし、何秒滞在したかといったデータを詳細に取得して購買行動を分析しています。一方、オフラインのリアル店舗で取得できているのはせいぜいPOSデータ程度のもので、購買行動を読み解くような詳細なデータはほとんど取れていないのが実情です。こうしたオフライン環境のデータを使いこなせる企業と、できない企業の差が今後ますます拡大していくと考えられます。そのギャップを埋めて課題解決に貢献していくIoTソリューションを、IoTSELECTION connected with SORACOMで拡充していきたいと思います。

     

    成瀬 現時点でオフライン環境のデータをほとんど取得できていないということは、見方を変えればその市場は「ブルーオーシャン」(競争のない未開拓市場)です。今後5Gが普及すれば、IoTとの組み合わせによって取得できるデータの幅もさらに広がっていくと予想されます。お客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援し、その先でサステナブルな社会を支えるインフラをつくっていくのだという意識をもって、両社の協業をさらに深めていきます。

    IoT SELECTION connected with SORACOMとは

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    IoT SELECTION connected with SORACOMは、実務ベースで実績のあるIoTソリューションを、ウェブサイトからサービス利用料課金モデルで提供するIoTサブスクリプション・マーケットプレイス。各IoTソリューションは、モノ(デバイス)、通信、アプリサービスがパッケージ化されているため、デバイス購入を行うことなく、すぐに利用を始めることが可能となっている。また、利用期間中の各種手続きもすべてウェブで完結する。なお、ソラコムが運営するパートナープログラム「SORACOMパートナースペース(以下、SPS)」には、現在100社を超える認定済みSPSパートナーが参加。これらSPSパートナーが構築した実績あるIoTソリューションも、順次IoT SELECTION connected with SORACOMから提供していく予定だという。

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    (左)玉川憲氏 ソラコム 代表取締役社長
    (右)成瀬明弘氏 東京センチュリー 取締役常務執行役員

    玉川 憲(たまがわ けん)氏

    1976年、大阪府生まれ。IBM東京基礎研究所を経て、2010 年に入社したアマゾンデータサービスジャパン株式会社で日本のAWS事業の立ち上げに携わった。2015年に株式会社ソラコムを創業。

    成瀬 明弘(なるせ あきひろ)氏

    1963年、香川県生まれ。東京センチュリー株式会社 京都支店長、事務統括部長、取締役執行役員営業統括部長を経て、2018年より現職。

    編集・発刊
    株式会社サブスクリプション総合研究所

    2019年6月14日発行「Subscription YOU 01」

    Web公開日

    2020年5月14日

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